ルイ・ヴィトンのニコラ・ジェスキエール──自身の言葉で語る|スージー・メンケス

ルイ・ヴィトンのニコラ・ジェスキエール──自身の言葉で語る|スージー・メンケス
スージー・メンケスがルイ・ヴィトンの2016年春夏プレコレクションについてニコラ・ジェスキエールと語り合う。
カリフォルニアのパームスプリングスで開催されたルイ・ヴィトン・クルーズ・ショーで、ニコラ・ジェスキエールはバレンシアガでの未来派からヴィトンでのクリエイティブなモダニズムまで、彼のファッションの旅を披露した。

1973年に建築家のジョン・ロートナーが設計した「宇宙への旅」様式の家からインスピレーションを得た43歳のジェスキエールは、彼の個人的美学とルイ・ヴィトンの世界を同調させることに成功した。15年間、バレンシアガのアーティスティック・ディレクターを務めた後、およそ2年前に彼はルイ・ヴィトンの新しいアーティスティック・ディレクターとしての役割を緩やかに開始した。しかしパームスプリングスの砂漠の太陽がなかったとしても、ジェスキエールのLVコレクションはますます熱くなってゆくだろう。
かつてはファッションブランドのインターシーズンの仕上げであったクルーズ・コレクション は、次第に遠方のロケーションで開催されるようになった。ソウルでは今週の初めにシャネルが、カンヌでは間もなくディオールのショーが開かれる。粗々しい石の建築を温めつつ、不毛な山の向こうに沈んでゆく燃えるような夕日を見ながら、私はニコラに話しかけた。彼は、この素晴らしいコレクションの着想が、最近の気まぐれと言うよりもむしろ、15年前に彼が初めてこのミッドセンチュリーのモダニズム建築を目にした時に播かれた種であることを教えてくれた。
これは、彼のファッション革命と同じくらいのスピードで英語力を高めた、彼自身の言葉で表現されたニコラである。

スージー:この家のことは聞いたことがありましたか? パームスプリングスに来る前から知っていましたか?

ニコラ:この家のことは知っていました。これは私がいつも夢見ていた極めて象徴的なモダニズムの家です。15年前にパームスプリングスに来たことがあります。おかしいのは、この家が街のお城のようなものに見えることです。演劇的な雰囲気があって面白いと思います。ここに来てこの家を見た時のことを覚えています。その形にとても興味をそそられ、一体これは何なのだろうと思いました。もちろん、すぐにこれがボブとドローレス・ホープ夫妻のために建てられたジョン・ロートナーの家だと分かりました。

ちょうど数ヶ月前にクルーズの開催地について話し合いを初めた時、この家を見て、「これだ、どうしてもここでショーをしたい」と思いました。この家は厳重に保護されてきたため、ここで催し物が開かれたことはほとんどありませんでした。

ルイ・ヴィトンで仕事を始めた時、私はこのブランドは旅であるべきだと常に感じていたように思います。そして今日では、モニュメントを見るためだけではなく、建築物を見るために旅行をする人達も大勢います。そしてルイ・ヴィトンが持つ探検と旅の側面は、建築的な旅になり得ると私は常に考えていました。

皆さんを全員ここに連れて来て、宇宙を旅する一つの方法として、このルイ・ヴィトンを体験してもらいたい、それと同時に美しい建築作品と、クルーズ・コレクションも発見してもらいたいと思いました。
デジタルイメージの強さによってリアリティーが別のもの、新しい経験になりました。物事をデジタル的に発見した後、リアリティーの中でそれを見たいのです。これら全てのイメージが、デジタルのお陰で今では世界中を巡っているのは良いことだと思います。これは人々に問いかけ、人々は更に多くのものを発見したいと望んでいます。それは良いことです。

スージー:ファッションをより未来的にしてこのカテゴリーに入れることについてはどう思いますか? 以前バレンシアガにいた時それを実践しましたね。

ニコラ:私は前に目を向けるのが好きなのですが、私がこの家を発見した時に得たアイデアは、そこに住み、進化してゆく女性達のコミュニティーについても考えるというものでした。この家からは多くの影響を受けました。それに私はカリフォルニアやアメリカでは外国人なので、良き異邦人として、多くのものを取り入れています。私は好奇心が強く、これらを吸収しようと試みるのです。このコレクションにおいては、パームスプリングスでは極めてフランス的だと思います。しかし同時に非常に多くのアメリカ的イコノグラフィーを喚起しています。

この家について私がとても面白いと思うのは、ブルータリズムとモダニズムおよび50年代とのコントラストです。ボブとドローレス・ホープ夫妻が入居した当時、彼らはすでに人生のある意味で成熟した段階にいました。それに彼らは極めて50年代的なテイストを持っていました。部屋のいくつか、花と壁紙のある浴室などは完全に50年代です。このミニマリズムとブルータリズムのコントラスト、そして甘美と豊かな色彩がとても好きです。このコレクションはそれを強く反映しています。

スージー:ここに初めて来たのと家の中を見たのはいつですか?

ニコラ:2月です。ルイ・ヴィトンの旅に関する展示会のため、シャルロット(・ゲンズブール)と一緒に来ました。何かすることがある時は、ロサンゼルスに来る理由があります。そういう訳で、私達はこの邸宅を見るためにパームスプリングスに来ました。


ボブ&ドローレス・ホープ夫妻が所有する、ジョン・ロートナーが1973年に設計したショーの会場の風景。 Photo: Louis Vuitton
スージー:あなたのバレンシアガでのキャリアでは、初期のコレクションは60年代に見られたような未来的な印象がありました。このスタイルは念頭にありますか?
ニコラ:これはもう終わったと考えています。これは完成させてしまいました。私の頭の中には複数のヒロインがいます。より未来的に見える女性もいれば、普段みかけるような女性もいます。私は特定の方法で女性達を視覚化していると思いますが、それは複数の女性達です。一人だけではありません。私が投影するのは様々な性格を持つ大勢の女性達で、それが現実です。シャープなラインは大好きです。嘘をつくつもりはありません! 鋭いものや、非常に興味を惹く何かを喚起するような建築や建造物が好きです。

スージー:有名なルイ・ヴィトンのバッグについてはどうですか? 2015年秋・冬のメインコレクションで披露した、宇宙時代のアクセサリーのような小さな四角い銀色のバッグです。

ニコラ:硬い小さなトランクのことですか? これらのいくつかはパームスプリングスの街中で披露されています。このコレクションには黒いヤシと本物の砂漠の感じがあります。砂漠で進化したかもしれない女性達のコミュニティーです。ですが、これがルイ・ヴィトンだということも知っています。良い気持ちです。私は私のブランドを作っているところです。私はルイ・ヴィトンの中で自分の領域を定めているところで、視点を表現するためにそうするよう求められていました。ですから、好奇心が非常に強くなっているのは本当のことです…好奇心は適切な言葉ではないですね…

スージー:探索的?

ニコラ:その通り! 探索的! 私は出来る限り探索的になることを自分に許しています。それに実際、ルイ・ヴィトンともこのようなプロジェクトを行えるのは素晴らしいことです。15年前にパーカー(ホテル)に滞在し、ここに来てこの家を見た時は、いつかここでコレクションをすることになるとは思いもしませんでした。それがこの素晴らしい状況が私にもたらしてくれたものです。それが人々にも幸せをもたらすことを願っています。